更新日 2025-09-01
大気汚染物質とは、大気中に存在し、人の健康や自然環境に悪影響を及ぼす化学物質や微小な粒子の総称です。代表的なものには、工場や発電所、車の排気ガスなどから排出される二酸化硫黄(SO?)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)があります。これらは呼吸器疾患や心血管疾患を悪化させる要因となるほか、酸性雨の原因にもなります。また、石油や石炭の燃焼によって発生する微小粒子状物質(PM2.5)は肺の奥深くまで入り込み、ぜんそくや肺がんなど深刻な健康被害を引き起こす危険があります。さらに、揮発性有機化合物(VOC)は太陽光と反応して光化学オキシダント(オゾン)を生成し、目や喉の刺激、植物被害の原因になります。大気汚染物質は都市のスモッグや視界不良をもたらし、気候変動にも影響を与えることから、国際的にも重要な環境問題とされています。そのため、排出規制の強化、省エネルギー技術の導入、再生可能エネルギーの活用など、多角的な対策が求められています。
プラスチック添加剤とは、プラスチックの性能を向上させたり加工性を高めたりするために加えられる化学物質のことを指します。プラスチックそのものは軽量で成形しやすいという利点がありますが、耐熱性や耐候性、柔軟性、難燃性などの性質は限られています。そこで、可塑剤や安定剤、難燃剤、着色剤、発泡剤などの添加剤が使用されます。例えば可塑剤は塩化ビニル樹脂(PVC)に柔軟性を与え、安定剤は紫外線や熱による劣化を防ぎます。また、難燃剤は火災時の燃え広がりを抑え、着色剤は製品に多様な色を付与します。しかし一方で、フタル酸エステル類など一部の可塑剤や難燃剤には内分泌かく乱作用や環境残留性が指摘されており、人や生態系への悪影響が懸念されています。これらは食品包装材や日用品を通じて体内に取り込まれる可能性もあり、国際的に規制や代替物の開発が進められています。プラスチック添加剤は生活を便利にする一方で、環境や健康への影響も考慮した持続可能な利用と管理が求められています。
食品添加物とは、食品の製造や加工、保存の過程で使用される物質の総称で、食品の品質を保持し、安全性や利便性を高める目的で添加されます。例えば、防腐剤は微生物の繁殖を抑えて食品の保存期間を延ばし、酸化防止剤は油脂の劣化を防ぎます。また、着色料や香料は見た目や風味を良くし、乳化剤や安定剤は食感や形状を整える役割を果たします。食品添加物は古くから利用されており、食塩や酢なども広い意味では添加物に含まれますが、現代では化学的に合成されたものや自然由来の抽出物など、多種多様な成分が用いられています。一方で、一部の添加物は摂取量が過剰になると健康への悪影響が懸念されるため、各国で使用基準や許容量が厳格に定められています。日本においても厚生労働省が安全性評価を行い、認可された物質のみが使用可能です。食品添加物は食生活を支える重要な技術であると同時に、消費者の不安も少なくないため、適正な利用と情報公開、そして天然由来や代替技術の開発が今後ますます重要になります。
残留農薬とは、農作物の栽培過程で使用された農薬の成分が収穫後も作物や食品に残っている状態を指します。農薬は病害虫や雑草の防除、生育の安定化などに不可欠な役割を果たしますが、使用後に分解されず残留する場合があり、人の健康や環境への影響が懸念されます。残留農薬は、摂取量が多いと神経系や内分泌系への悪影響、アレルギー反応などを引き起こす可能性があるため、各国で厳しい規制が設けられています。日本では「ポジティブリスト制度」により、定められた基準値を超える農薬は検出されてはならず、違反があれば流通できません。この制度は国際的にも厳格とされ、食品安全委員会による科学的なリスク評価に基づき安全基準が定められています。また、農薬の残留は水や土壌を通じて環境にも影響を与えるため、持続可能な農業の観点からも問題視されています。近年は、有機農業や低農薬栽培の推進、生物農薬や天敵利用など、農薬依存を減らす取り組みが広がっています。残留農薬は私たちの食生活と直結する課題であり、安全な農産物供給のために適切な管理と監視が不可欠です。
重金属とは、比重が4以上とされる金属元素の総称で、鉄や銅、亜鉛のように生体に必要な必須元素もあれば、水銀、鉛、カドミウム、ヒ素など毒性が強く健康被害を引き起こすものも含まれます。これらは自然界にも存在しますが、工業活動や鉱山開発、排ガスや廃棄物処理によって環境中に高濃度で放出されることがあります。重金属は分解されずに土壌や水に蓄積しやすく、生態系を通じて食物連鎖に取り込まれるのが特徴です。たとえば水俣病は水銀汚染によって発生した公害病であり、カドミウムはイタイイタイ病の原因となりました。鉛は子どもの神経発達に悪影響を与え、慢性的な中毒を引き起こします。また、微量であっても長期的に摂取すると体内に蓄積し、腎臓障害や骨の異常をもたらすことがあります。近年は、食品や水道水、輸入製品における重金属の残留基準が厳しく定められ、国際的に規制や監視が行われています。環境や健康を守るためには、排出抑制や浄化技術の開発、リサイクルの徹底など、持続可能な管理が不可欠です。
マイクロプラスチックとは、5ミリメートル以下の微細なプラスチック片を指し、現在世界的な環境問題として注目されています。発生源には大きく二種類あり、製造段階から微小な状態で存在する一次マイクロプラスチック(化粧品や洗剤に含まれるスクラブ材、工業用ペレットなど)と、レジ袋やペットボトル、漁網などが紫外線や摩耗によって劣化・破砕されて生じる二次マイクロプラスチックがあります。これらは分解されにくく、河川や海洋を通じて広く拡散し、魚介類やプランクトンに取り込まれ、食物連鎖を通じて人間にも影響を及ぼすと考えられています。さらにマイクロプラスチックは、表面に有害化学物質や重金属を吸着しやすい性質があり、それが生態系や人体に悪影響を与える懸念があります。実際に、海鳥や魚の胃から大量のマイクロプラスチックが検出されており、栄養摂取阻害や生殖への悪影響が報告されています。国際的には削減や規制の取り組みが進められ、欧州連合(EU)では化粧品への使用禁止、日本でも使い捨てプラスチック削減が推進されています。持続可能な社会を実現するためには、発生源の抑制、リサイクル技術の強化、そして消費者一人ひとりの意識改革が重要です。
自然放射線とは、人間の活動とは関係なく自然界に存在する放射線のことで、私たちは日常的に絶えずその影響を受けています。主な発生源は大きく三つに分けられます。第一に、宇宙線と呼ばれる宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子で、飛行機での移動や高地ほど影響が強まります。第二に、大地放射線で、ウランやトリウム、カリウム40といった天然の放射性同位体が土壌や岩石に含まれており、これが放射線を放出します。特に花崗岩の多い地域では線量が高くなります。第三に、体内放射線で、私たちの体にもカリウム40や炭素14といった放射性同位体が微量に存在し、内部から放射線を出しています。自然放射線の年間被ばく量は地域によって異なり、世界平均で約2.4ミリシーベルトとされていますが、場所によってはその数倍に達することもあります。通常レベルの自然放射線は健康に大きな影響を与えませんが、被ばく量が高い地域では長期的な影響が議論されています。自然放射線は避けられない存在であると同時に、医療や環境放射線の基準を考えるうえで重要な基準となっています。
揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)とは、常温・常圧で容易に気化し大気中に放出される有機化学物質の総称です。代表的なものにはホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、ベンゼンなどがあり、建材や塗料、接着剤、印刷インク、洗浄剤、自動車排気ガスなど多様な発生源から放出されます。VOCは室内空気汚染の要因となり、シックハウス症候群や頭痛、めまい、目や喉の刺激といった健康被害を引き起こすことがあります。さらに大気中では太陽光の紫外線と反応して光化学オキシダント(オゾン)を生成し、光化学スモッグを発生させる原因物質にもなります。これにより呼吸器疾患や植物被害が生じ、都市の大気汚染を深刻化させる要因となっています。そのため、日本を含む多くの国でVOCの排出規制や建材に含まれる成分の基準が設けられています。また、近年は低VOC型塗料や接着剤の開発、換気システムの改善など、健康と環境への影響を軽減する取り組みも進められています。VOCは便利な化学製品に広く利用されてきましたが、持続可能な社会の実現には代替技術や適切な使用・管理が求められています。
アスベスト(石綿)とは、天然に産する繊維状ケイ酸塩鉱物の総称で、耐熱性・耐摩耗性・絶縁性に優れ、かつ安価で加工しやすいことから、かつては建材や断熱材、ブレーキ部品など幅広く利用されました。特に高度経済成長期の日本では建築物の屋根材や吹き付け断熱材として大量に使用されました。しかし、アスベスト繊維は非常に細かく、吸入すると肺の奥深くまで入り込み、排出されにくい性質を持ちます。その結果、長期的に曝露された人々に石綿肺、肺がん、中皮腫などの重篤な疾病を引き起こすことが明らかになりました。これを受けて、日本を含む多くの国でアスベストの製造や使用は段階的に規制され、現在では全面禁止されています。ただし、過去に建てられた建築物や古い製品にはアスベストが残っている場合があり、解体・改修工事の際に飛散防止対策が不可欠です。アスベストは一度環境中に放出されると自然分解されず、長期にわたりリスクを残すため、今もなお「負の遺産」として社会的課題となっています。